海事代理士の試験の難易度は高いの?勉強時間や合格率・過去問の使い方まで解説!
「海事代理士の試験の難易度は高いのだろうか」
と疑問に思っている方もいるでしょう。
海事代理士の1次試験の合格率は50%前後で特別難しいとは言えませんが、海事代理士試験においては受験者のレベルが高いということも考えられます。
今回は海事代理士試験の難易度について、勉強時間や合格率、過去問の使い方などを詳しく解説します。
これを読めば海事代理士試験の難易度がよく分かるはずです。
海事代理士試験の難易度についてざっくり説明すると
- 1次試験の合格率は50%程度、2次試験はほぼ全員合格
- 受験者は司法書士や行政書士、社労士の有資格者が多い
- 勉強時間は500時間程度
海事代理士の難易度
海事代理士の試験の合格率は高めです。具体的には筆記試験が51.8%、口述試験が92.6%の合格率となります。
しかし海事代理士を受験する人には、司法書士や行政書士の取得者が多いため、難易度はそこそこ高いと言えるでしょう。
海事代理士ってどんな資格なの?
海事代理士は、海事に関する申請などの手続きの代行を主な業務とする国家資格です。
取得すると船舶登記や船舶登録などの業務を行うことができます。
海事代理士は海事代理法の専門家であり、業務内容が似ていることから「海の司法書士」や「海の行政書士」と呼ばれる職業です。「海の法律家」と呼ばれることもあります。
海事代理法のプロフェッショナルであることから、海事関係の顧客からは重宝される存在です。
どんな人におすすめできる?
海事代理士は海にまつわる様々な法律を取り扱うため、何と言っても海が好きな人におすすめします。
しかし海事代理士の職務のみで生計を立てることは困難です。そのためこれから海事代理士を目指す場合、収入源として司法書士や行政書士、社会保険労務士など、他の関連資格の取得も考えておきましょう。
資格の取得段階だけでなく、海事代理士として働き始めた後も法律を学び続ける必要があるでしょう。よって法律に関係した勉強が好きな人、または得意な人に向いている職業だと言えます。
海事代理士の試験内容や概要は?
海事代理士の試験には、筆記試験と口述試験があります。試験内容は以下の通りです。
筆記試験の試験範囲
筆記試験は、一般法律常識(概括的問題)と海事法令(専門的問題)の2種類が出題されます。各問題の詳細は以下の通りです。
問題 | 内容 |
---|---|
一般法律常識(概括的問題) | 憲法・民法・商法(第3編「海商」のみ対象。) |
海事法令(専門的問題) | 国土交通省設置法・船舶法・船舶安全法・船舶のトン数の測度に関する法律・船員法・船員職業安定法・船舶職員及び小型船舶操縦者法・海上運送法・港湾運送事業法・内航海運業法・港則法・海上交通安全法・造船法・海洋汚染等及び海上災害の防止に関する法律・国際航海船舶及び国際港湾施設の保安の確保等に関する法律(国際港湾施設に係る部分を除く。)・領海等における外国船舶の航行に関する法律・船舶の再資源化解体の適正な実施に関する法律及びこれらの法律に基づく命令。 |
口述試験の試験範囲
口述試験は以下の4つの試験範囲から出題されます。
-
船舶法
-
船舶安全法
-
船員法
-
船舶職員及び小型船舶操縦者法
ちなみに口述試験は、同年度に行われた筆記試験の合格者および同年度の筆記試験免除を申請した者に受験資格があります。
出題方法・合格基準
海事代理士の試験では、筆記試験が1次試験、口述試験が2次試験になります。
合格基準の詳細は以下の通りです。
試験 | 合格基準 |
---|---|
1次試験(筆記) | 筆記試験18科目の総得点220点の60%以上の得点 *全科目受験者の平均正答率が60%を上回る場合には、平均正答率以上の得点のものが合格者となる |
2次試験(口述) | 合否判定は、試験科目の全科目を受験した者にのみ行われ、口述試験4科目の総得点40点の60%以上の得点の者が合格となる |
受験手数料など諸費用
海事代理士試験の受験手数料は、6,800円となります。
ただし国土交通省(各地方運輸局)へ海事代理士としての登録・更新を行う際には別途費用がかかります。
登録時に支払う登録免許税は3万円です。また、その後に海事代理士会へ入会(任意)すれば、そこでも費用がかかります。
海事代理士試験の受験資格は?
海事代理士試験に受験資格はありません。そのため誰でも受験することが可能です。
海事代理士試験は、難関資格の中では、受験のハードルが低い試験の一つだと言えます。
また筆記試験のみ合格となった場合は、申請により翌年の試験に限り、筆記試験が免除される制度があります。
口述試験の受験資格は、筆記試験の合格者および筆記試験の免除申請者です。
試験会場・試験日について
海事代理士試験の試験会場および試験日程の詳細は以下の通りです。
1次試験(筆記試験) | 2次試験(口述試験) | |
---|---|---|
試験会場 | 札幌・仙台・横浜・新潟・名古屋・大阪・神戸・広島・高松・福岡・那覇 | 東京 |
試験日程 | 9月下旬 | 12月上旬 |
試験は年に1回行われます。なお、令和2年に関する本試験日の情報はまだ公開されていません。
海事代理士試験の合格率
難関資格の一つに数えられる海事代理士ですが、その合格率はどのくらいなのでしょうか。
海事代理士の合格率は約50%?
過去の海事代理士試験における合格率は以下の通りです。
- 1次試験(筆記試験)
年度 | 実受験者 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2021年 | 302人 | 167人 | 55.3% |
2020年 | 288人 | 156人 | 54.2% |
2019年 | 288人 | 156人 | 54.2% |
2018年 | 303人 | 157人 | 51.1% |
2017年 | 290人 | 142人 | 49% |
2016年 | 290人 | 141人 | 48.6% |
2015年 | 295人 | 151人 | 51.2% |
2014年 | 315人 | 146人 | 46.3% |
- 2次試験(口述試験)
年度 | 実受験者 | 合格者数 | 合格率 |
---|---|---|---|
2021年 | 212人 | 209人 | 98.6% |
2020年 | 199人 | 124人 | 62.3% |
2019年 | 160人 | 97人 | 60.6% |
2018年 | 162人 | 150人 | 92.6% |
2017年 | 162人 | 159人 | 98.1% |
2016年 | 173人 | 133人 | 76.9% |
2015年 | 167人 | 116人 | 69.5% |
2014年 | 157人 | 134人 | 85.4% |
筆記試験の合格率は例年約50%で推移しています。口述試験は年度による合格率のばらつきがあるものの、基本的には合格できる試験だと言えるでしょう。
合格までの勉強時間は?
海事代理士試験に必要な勉強時間は一般的に約500時間と言われています。しかし法律関係の予備知識のある人なら、300時間程度で合格が可能でしょう。
500時間勉強するには、一日3時間勉強したとしても最低3ヶ月は必要です。社会人は毎日勉強できないことも多いため、それ以上かかる場合も当然あります。
長期間の勉強が必要なので、試験日から逆算して勉強時間を確保するようにしましょう。
また、一般法律に関する知識のある人でも、船舶法や船員法など、海事に関わる専門的な知識に関しては一から勉強することになります。
海事分野の知識が重要なため、法律に精通している人であっても苦労する可能性はあるでしょう。
海事代理士試験の受験者層
海事代理士試験においては、公表された受験者層のデータは存在しません。
一般的に行政書士や社会保険労務士の有資格者が業務の多角化を目的として受験する場合が多いです。
試験の合格率は低めで比較的難易度の高い試験だと言えるものの、上記2資格の取得者の合格率は高い傾向にあります。また少ない勉強時間でも合格できるケースが多いです。
明確な受験者層の情報は不明ですが、司法書士や行政書士、社労士などの資格取得者が、受験者のメインであると考えられます。
海事代理士を取るとどんなメリットがある?
司法書士や社労士などの有資格者が多く受験する海事代理士の試験ですが、資格取得にはどんなメリットがあるのでしょうか。
業務の幅を広げられる!
行政書士や司法書士として勤務する上では、海事代理士の資格を持つことで業務の幅を広げることが可能です。
実際、海事代理士の資格を取得している行政書士や司法書士は沢山います。
それらの資格と海事代理士は、知識や業務の面で共通点が多いため、資格の勉強がしやすいのです。資格取得の一般人に比べると容易でしょう。
行政書士や司法書士を主軸に、仕事があるときだけ海事代理士として働くという、ダブルライセンスのスタイルが主流となります。
船に乗ることができる!
海事代理士は職務上、日本全国の港を訪れることができます。また船舶試運転の立ち合いなど、実際に船に乗る機会も多いです。
案件によっては貴重な外国船やとても大きな船に乗れることもあるでしょう。
海事代理士は海が好きな人におすすめであると先に述べた理由はここにあります。
大好きな海に囲まれて仕事ができることは、大きなメリットだと言えます。
普段、行政書士や司法書士の業務を行う上での息抜きにもなるでしょう。
資格は一生もの
海事代理士の資格は国家資格です。海事代理士になるには、海事代理士試験に合格し、国土交通省(地方運輸局)へ登録を行う必要があります。
海事代理士の資格を一度取得すると、一生海事代理士として活動することが可能です。大好きな海にまつわる仕事を生涯続けていくことができます。
海事代理士にならなくても、港湾関連の企業や法律を扱う事務所などに就職するというのも選択肢です。就職の際は、国家資格を持っているということが有利に働くでしょう。
海事代理士は独学で突破!
海事代理士試験の勉強方法は独学が一般的です。また通信講座を活用するのも良いでしょう。
独学合格が一般的
海事代理士の試験は、合格率や勉強時間などから見て、特別難易度の高い試験とは言えません。コツコツ勉強すれば十分に合格できる試験でしょう。
勉強方法は基本的に独学になります。海事代理士試験に公式テキストはないため、市販の参考書や問題集を利用して合格を目指しましょう。
勉強の手順ですが、他の資格試験同様、まずがインプットから始めることが基本です。
市販の参考書を読み込んで、試験範囲の内容を大まかに理解しましょう。何度か読んで理解できたら、アウトプット(問題演習)に進みます。
市販の問題集や過去問を使って問題を解き、分からない部分はテキストで復習しましょう。このサイクルを続けるうちに解答の精度が上がっていくはずです。
スケジュールはしっかりと
海事代理士試験の合格には、継続的な勉強が何より大切です。そのためにまずは学習スケジュールを立てましょう。
合格までの道筋をあらかじめはっきりさせておくことで、勉強の継続がしやすくなります。
スケジュールを立てる際のコツとしては、適度な時間的ゆとりを持たせることです。
あまりに過密日程だと疲れてしまう一方で、ゆったりさせ過ぎてもモチベーションの維持が難しくなります。
また一気に長期の計画を立ててしまうと予定が崩れてしまいがちです。そのため1日のノルマを設定したりするのも良いでしょう。
過去問を中心に勉強しよう
海事代理士試験においても、過去問演習が有効な対策法になります。
試験勉強では、よく出てくる範囲を中心に勉強することが大事です。全てを満遍なく勉強していては、勉強時間が膨大になってしまいます。
頻出問題や出題傾向を把握するのに最も良い方法が過去問演習です。何度も繰り返すことによって試験自体に慣れることができます。
海事代理士の過去問は、国土交通省のホームページから無料で入手することが可能です。過去問を入念に研究して、合格を目指しましょう。
独学におすすめのテキストは?
独学で合格を達成するためには自分にあったテキスト選びが非常に大切です。
資格Timesでは成山堂書店出版、日本海事代理士会編集の「海事代理士合格マニュアル」をお勧めします。
こちらのテキストの内容は、筆記試験や口述試験の過去問などの網羅や、合格体験記などです。
さらに新形式の問題や難解な用語についての解説、参考書なども含まれています。
この一冊をしっかりと勉強することで、海事代理士についての幅広い知識がつく、そんなテキストと言えるでしょう。
海事代理士の登録について
海事代理士試験に合格したら海事代理士としての登録が可能になります。登録によって、晴れて海事代理士となれるのです。
各地方運輸局へ書類を提出する
海事代理士の登録をする場合、以下の書類を地方運輸局長へ提出します。
-
海事代理士登録申請書
-
宣誓書
-
海事代理士合格証書の写し
-
本籍の記載のある住民票の写し(外国人にあっては国籍等の記載のある住民票の写し)
-
収入印紙 30,000円分
-
(業務に使用する印章)
提出先は、登録しようとする事務所の所在地を管轄する運輸局長になります。
提出先によって、提出書類の種類が異なる可能性もあります。そのため登録時は各運輸局で必要な提出書類を確認するようにしてください。
日本海事代理士会への任意加入
海事代理士試験に合格すれば、一般社団法人日本海事代理士会へ「正会員」として入会することが可能です。
なお、入会時には入会金および年会費を支払う必要があります。入会金は50,000円、年会費は60,000円です。
会費の納入方法は、郵便貯金口座からの自動振り込みとなります。入会申込時に自動振込利用込申込書の提出が必要です。
日本海事代理士会は、海事代理士試験合格者や資格認定者に向けた講習会も行っているため、参加してみるのも良いでしょう。
海事代理士とのダブルライセンスがおすすめな資格
先述したように、海事代理士の仕事だけで食べていくのは困難です。そのため収入源として他の資格も取得していることが理想的と言えます。
司法書士
司法書士は、弁護士と同じく法律の専門家です。全ての法律業務が行える弁護士の業務を補完する役割を持ちます。
具体的に言うと、司法書士は登記や供託の代行です。また法務省の認定を受けて認定司法書士になると、一部の紛争解決業務を行うこともできます。
司法書士になるには、司法書士試験に合格することが一般的です。
司法書士試験の合格率は3%前後であり、難易度はかなり高いと言えます。ただし司法書士試験には受験資格がないため、合格率の数字ほど難易度は高くないかもしれません。
行政書士
行政書士は、司法書士と扱う分野が似ています。登記・供託を専門とした司法書士に対して、行政書士は文書作成の代行(代書)が主な仕事です。
代書は、遺言や相続などの暮らしに関わるものから、会社設立や知的財産権などビジネスに関わるものまで様々な種類があります。
行政書士試験の合格率は9%程度です。こちらも受験資格はありません。
社会保険労務士
社会保険労務士(社労士)は、人材に関わる業務の専門家で、その職務は社会保険労務士法に基づきます。
具体的には労働社会保険手続きの代行や年金相談などの業務を行う仕事です。
また「あっせん」という手続きを用いた紛争解決なども行います。
社会保険労務士試験の合格率は6%前後で、こちらも難易度の高い試験だと言えるでしょう。社労士試験は、大学(短期大学を含む)や専門学校を卒業した者などに受験資格があります。
海事代理士試験の難易度まとめ
海事代理士試験の難易度まとめ
- 試験の合格率は50%程度で数字としてはそこまで難しくない
- 司法書士や行政書士などが多く受けるため、受験者のレベルは高い
- 勉強時間は500時間だが、事前知識があれば300時間
今回は海事代理士試験の難易度について解説しました。
海事代理士試験の難易度は特別高いとは言えませんが、海事に関する法律の知識が必要なため、入念な対策が必要です。
また海事代理士だけで生計を立てることは難しいので、司法書士や行政書士、社会保険労務士とのダブルライセンスをおすすめします。